【東京校】KADOKAWA「キトラ」編集部 若月孝士編集長による特別講演会レポート。SNS時代に、イラストレーターとして活躍するために必要なことは?
「出版社の編集者として、イラストレーターに求められていることをお話できればと思います。最近では、イラストレーターがSNSで人気を獲得し、そうした方々の作品集やコミックスを刊行することも非常に増えてきています」と、KADOKAWA 「キトラ」編集部 若月孝士編集長。若月編集長は、旬のクリエイター170人の作品が載ったイラスト年鑑『VISIONS 2023 ILLUSTRATORS BOOK』(監修:pixiv)、『ゼロから学ぶプロの技 神技作画シリーズ』などを手掛けてきています。
今回は、書籍『イラストでお金を生み出す秘訣』(著:虎硬)の内容にそって、講演を行っていただきます。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000304/
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000335/
<コミックとイラストの垣根は無くなりつつある>
「キトラ編集部では、SNS発のコミックを柱のひとつとしています。コミックというと漫画雑誌に連載したのものが単行本化されるのが主流でしたが、2015年くらいから、Twitterやpixivで作品を展開する作家さんが増えました。漫画雑誌を経由しないビジネスモデルが確立されたことで、漫画家さんだけでなく、イラストレーターさんの漫画が単行本化することもあります」。また、イラストレーターが漫画を描いたケースとして『SAMURA』(KADOKAWA)のおくさんや、イラストと漫画でご活躍される出水ぽすかさんを例に挙げ、コミックスとイラストの垣根はなくなってきていると話します。
<SNSを活動の拠点にし、SNSでファンを獲得していることが重要!>
「これまでの漫画業界は、雑誌編集部を通して、読者に届けるスタイルしかありませんでした。しかし、2015年頃から『ヲタクに恋は難しい』(著:ふじた/一迅社)に代表されるように、作家さん自らがSNSで発信し、出版社を通さなくてもWebで読者に届けることが可能になりました。出版社も、才能がある人に『本にしませんか』と、SNS経由で声を掛けています。従来の大御所作家さんとアシスタントさんといった徒弟制度だけではなくなり、高校生でデビューされる漫画家さんもいます。ちなみに、これまでの漫画雑誌が届けていた読者と、SNSの漫画読者層は若干異なります。SNSで展開されている漫画には、未完成な場合もあり、“ファンの人とつくりあげる”参加型のお祭りといった側面があります。コンテンツだけではなく、読者が作家さんを支持する点も変化しています」
<独自のテーマや切り口を持っているイラストが売れるように>
「画集でも、テーマ性や物語性が非常に重要になってきています。また、消費の動向が、コンテンツからサービスへとシフトしてきています。例えば、わかりやすい例では、CD(コンテンツ)が売れない時代にどうしたら売れるか?を考え、アイドルグループの握手券をセットにし、イベント(サービス)への参加を目的とした購入を促すといった具合です。YouTuberに投げ銭するのもそうですが、ファンとして作家さんを盛り上げる文化が定着してきています。非常に完成された作品を出すだけでなく、消費者も参加できるようなイベントを提案できるかが、非常に重要です。イラスト業界においても、イラストそのものだけでなく、作家やキャラクターへのファンを作れるかが重要な鍵になってきています」
<「萌え」から「エモい」へ。イラスト需要も多岐に>
「『VISIONS 2023 ILLUSTRATORS BOOK』に掲載されている作品も、かつてのフェティシズム全開のトレンドから、現在は、エモさ、共感など情緒を大切にするような作品に変化してきています。モチーフも、美少女に限りません。女性からも支持される、ファッション性の高い作品が売れます。女性が『週刊少年ジャンプ』(集英社)を読むといった社会現象からも分かるように、ジェンダーレス、エイジレスといった時代の影響を受けています。また、美少女系のイラストは、年鑑に収録する数が相対的に減ってきています。美少女ジャンルが縮小しているわけではなく、これ以外のジャンルが拡大しているからです。いわゆる萌え系のテンプレートを外れた闇可愛い系や、美少年、美青年、BLもあり、多様化しています。風景や背景イラストも人気が高く、イラスト需要が多岐にわたることが分かります」
<イラストレーターのお仕事は大きく分けて「受託」と「自主企画」>
「イラストレーターさんのお仕事は、大きく分けて2種類です。企業などのクライアントから仕事を受けるケースと、自分で企画する同人誌やファンコミュニティです。クライアントからオファーされる仕事内容も、ラノベや雑誌の挿絵、アニメーション、V Tuberさんのキャラクターデザインなど幅広いです。また、同人誌は作家さんの大きな収入源になっています。pixivにアップした作品をグッズ化したり、BOOTHで販売したりするなどさまざまな道があります。SNSがなかったときは、イラストのお仕事は限定されていましたが、今はイラスト自体が需要される時代。作家さんが描きたいものが描きやすい時代です」
詳しくは、『イラストでお金を生み出す秘訣』の「イラストレーターの仕事マップ」や、「Chapter3■仕事の依頼がざくざく舞い込むしかけ作り」を、ご参考ください。
<SNSで自己プロデュースすることがアドバンテージに>
「皆さんの時代は、SNSで自分を発信していくことがアドバンテージになります。SNSが苦手な場合は、マネジメントしてくれる事務所に所属する方法もあります。どのように自分を演出していくのか? SNSでの自己プロデュース力が求められます。編集部でも、SNSで人気のある作家さんは見ています。SNSで人気が出せれば、声がかかる時代です。一方で、参入障壁が下がってきた為、入れ替わりは激しいです。では、長く人気を維持して活躍していくため、クライアントに求められる人材になるにはどうしたらいいでしょうか?」
<クライアントに求められる人材になるためには?>
「まず最低限、連絡が取れること。そして、細かいコミュニケーションができる人。『え、そんなこと?』と思われるかもしれませんが、実は連絡を取れなくなってしまうケースは結構あります。イラストレーターさんから連絡がないと、『間に合うのかな、別の人を探さなくてはいけないのかな?』と、依頼する側も心配になってしまいます。次に、細かいコミュニケーションが取れること。といっても話が上手な人という意味ではなく、打ち合わせの際にクライアントのニーズと合致しているか確認作業ができるだけで十分です。クライアントのオーダーは、完璧じゃない場合もあり、イラストレーターも相手の求めているポイントをつかみきれず、お互いに曖昧なまま進んでしまう場合も多々あります。結果、リテイク(追加の修正)を繰り返すことになったり、イラストを使用した商品やサービスがコンセプトに外れて売れないということに繋がります。クライアントは自分に非があるあるとは思わないので、『あの作家さんは意図を汲んでくれない』、などと判断されてしまいます。相手の要望を確認しないと、自分が損をしてしまいます」。さらに、「著作権の正しい知識を持っていることも重要です」と強調します。「例えば商標が登録されている商品や企業のロゴを許諾なしに作品に入れると、大きな問題になります。他にも、リテイクの場合の費用、支払い期日、報酬は税込みなのか税抜きなのか、イラストの使用範囲や、自分がSNSや同人誌で発表していいのかなど、聞きにくいかもしれませんが、仕事を引き受ける祭に確認してください」と、お仕事の注意点を分かりやすく解説しました。
<メンバー(在校生)からの質問タイム>
オンライン&オフラインで参加したメンバーからも、たくさんの質問が寄せられました。
――― 魅力的なイラストにするためには、仕上げが大切ですか?
「仕上げは最終段階です。それよりも重要なのは、最初のコンセプトや設定の部分です。ただ可愛いで終わってしまうのではなく、何か情報をONできないか考えてみましょう。キャラクターがいるのは、街の雑踏の中なのか、はたまた神社なのか? その性格からどんなものを身に着けているのか? 風景の場合も同じです。まずは、情報を足し算できないかの訓練をしてみて、それがある程度できるようになったら、今度は本当に見せたいものを強調するために引き算の仕方を考えてみたらどうでしょうか」
――― 目を引く作品は、どのようなものですか?
「その人ならではのメッセージがある作品は、気になります。それが無いと、かわいい、かっこいいキャラクター、綺麗な風景で終わってしまいます。背景に隠れた何かがあると匂わせられると、奥行きを感じられます」
――― AIによるイラストは、今後のイラスト業界にどのような影響を及ぼすと考えていらっしゃいますか?
「AIにラーニングさせ、精度の高い作品をつくることに賛否が起こっていますね。イラストレーターの仕事を奪うのでは?と考える人もあれば、イラスト制作の補助として使う可能性もある、とポジティブにとらえる人もいらっしゃいます。個人的には、AIを使いどう生産性を上げるのかが問われる時代になるのではないかと思っています。一般的に、AIはキャラクターの感情描写や、関係性を描くことが苦手とされています。そこに、人間のイラストレーターさんが活躍する余地があるのではないかと思います。また、自分の中のメッセージ性を強くすることが、大事なのではないでしょうか」
――― 今後、どのようなジャンルの作品が流行しますか?
「未来の予測なので非常に難しいですが、戦争が起きているような厳しい世相を反映して、よりリアリティに寄ったものと、その反動で現実から離れて癒やしを求めるものと、二極化していくのではないか?と、個人的には思います」
――― フリーランスと、会社に就職するのとでは、どちらが良いですか。
「まずは、就職して社会人経験を積むことをおすすめします。今は、イラストレーターになる参入障壁が低いので、昔よりフリーでデビューしやすい環境なのですが、同時に、新しい人に代わる可能性も高く、誰もがいきなりフリーランスを目指すのはリスクが高いと思います。クレジットカードをつくるときや住宅ローンをくむときなど生活や人生設計においても、フリーランスは不利になることがあります。また、就職すると雇用が保証されるだけでなく、上司に指導してもらえるので、20代のうちにコミュニケーション能力も身に付けられると思います」と、一つひとつの質問に真摯に答えてくださいました。
在校中から、実践的な知識を得られるのも、ゲームアカデミーで学ぶメリットのひとつ。
講演会終了後も、メンバーからの個別の質問に答えてくださいました。いずれ、講演会に参加したメンバーのなかから、若月編集長がお仕事を依頼してくださるイラストレーターさんが、登場するかもしれませんね!
若月編集長、ありがとうございました。