こんにちは。バンタンゲームアカデミーです。
今回は、スペシャルゲストをお招きした特別講演会をレポート。
『映画大好きポンポさん』より監督・脚本平尾隆之さん、プロデューサー松尾亮一郎さんをお招きしました!
「若い方の背中を押せるような作品になるといいと思っていました」と挨拶する平尾監督。松尾プロデューサーも「皆さんとこうしてお話できる機会をいただき嬉しいです」と笑顔を見せます。まずは、おふたりのプロフィールをご紹介!
<平尾隆之監督>
マッドハウスに制作進行として入社。演出助手などを経験され、退社後ufotableで演出として活躍されます。2008年『劇場版 空の境界 第五章 矛盾螺旋』にて監督デビュー。映画『桜の温度』、映画『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』、TV『GOD EATER』などで監督を務めます。小説『のけもの王子とバケモノ姫』など執筆活動にも取り組まれています。
劇場作品・短編アニメーションの企画・制作を手掛ける株式会社CLAP代表。マッドハウスで制作進行からキャリアをスタートしTV『BLACK LAGOON』アニメーションプロデューサー、映画『マイマイ新子と千年の魔法』プロデューサー、映画『この世界の片隅に』では制作プロデューサーを務めました。平尾監督とは20年来のお付き合いになるそう!インタビュワーは、ゲーム・アニメライター専攻を指導する斎藤ゆうすけ講師です。
<そもそも、『映画大好きポンポさん』とは?>
平尾監督「もともとは、pixivで公開された作品です。ハリウッドを模したニャリウッドが舞台になっていて、そこで敏腕若手プロデューサーとして活躍するのがポンポさん。彼女にみそめられ、製作アシスタントとして働く青年がジーンくんです」
――― 映画化の経緯は?
平尾監督「バンダイナムコのプロデューサー富澤祐介さんが、『あなたが監督すべきではないか?』と『映画大好きポンポさん』のURLを送ってくれました。原作を読んで『やってみたいです』と伝えたら、富澤さんが大阪にいる原作者・杉谷庄吾さんに会いに行ってくれたんです。アニメ化するなら書籍化もしなければなりませんが、どこで書籍化するかという話になり、ちょうどその日、僕が富士見ファンタジア文庫編集者さんと打ち合わせの予定が入っていたんです。マンガの編集もしていた方だったので紹介し、KADOKAWAさんでコミック出版が決まり、とんとん拍子で製作委員会が組成していきました。プロデューサーの松尾くんとは旧知の仲で、『何かできるといいね』と以前から話をしていて、さまざまな縁が繋がっていった感覚です。発起人である富沢さんの熱い想いが根源的な力になったと思いますし、良い作品が作れるんじゃないかなという予感もありましたね」
――― 作品の印象は?
平尾監督「原作はマイノリティはマイノリティのままでいい、という肯定感に溢れた作品です。僕自身、ずっと『マイノリティがマジョリティに一矢報いる』ストーリーを作りたいと思っていました。ジーンくんは社会になじめなくて、映画という道に夢や希望を見出していきます。その部分にもすごく惹かれました」
松尾プロデューサー「プロデューサーの審美眼に着目した作品は他になく、面白いと思いました」
――― 原作からアニメ化するうえで気を付けたことは?
平尾監督「自分が漫画を読んで好きになった部分、感情移入できたところは変えないようにしようと思いました。基本的には作品をお預かりする立場なので、できれば無傷で、可能ならプラスにして返したいと思っています。原作者の杉谷さんは『お任せします』と許諾してくださいましたが、見守っていただきながらもプレッシャーはありました」
――― キャスティングのこだわりは?
平尾監督「声優さんは養成所を経てデビューされているので、発声もできている方が多いですし、最初からアニメーションで声を当てることに最適化されているので、皆さんお上手なんですが、ジーンとナタリーには生っぽさと初々しさが欲しかったんです。だから最初から二人は俳優さんにお願いしたいと決めていました。オーディションで、清水さんは格好いい声だけれど訛りが少しあって。オーディション後にそのことをお伝えすると『次までに直しておきます』と言ったんです。オーディションって一回きりだから『次』って、受かったときですよね(笑)。その様子がジーン君と重なったんです。得意な分野では無意識の熱意があるというか。大谷さんの声は、素朴な柔らかいニュアンスのなかに輝きがありイメージに合っていました。アフレコが始まると、ふたりともキャラクターとシンクロして成長していきました。ポンポさんの声には、元気な少女の部分とシビアなプロデューサーの要素を求めました。ハイトーン一辺倒だと説得力が薄まるので、中世的な声の持ち主を探していました。小原さんは、少年のようでもあり少女のようでもあり、声のゆらぎも出せる方。ポンポさんの年齢感も難しかったですね。実は40代なんじゃないか?と思うこともありましたが(笑)、映画の女神が概念化した存在ととらえています」
<制作舞台裏を公開!>
平尾監督「『映画大好きポンポさん』ではこんな工程を踏みましたよ、という作り方です。正解はないですし、これが正しいということでもありません」と前置きしたうえで、一般的な流れと本作品での手法を比較して解説します。
- 企画の成り立ち>
一般的に、幹事会社が企画を立案し、制作会社が企画を受託。その後、出資者を募り、製作委員会が組成されるという流れが多いそう。『映画大好きポンポさん』のケースは前述の通り。
松尾プロデューサー「スポンサーは1社ではまかなえないことも多いので、通常何社かが入ります」
平尾監督「大きなお金が動きます。自分から企画を持ち込むときは諦めずに『こういう作品を作りたい』という熱意を伝えることが大切です」
- 脚本>
平尾監督「構成案、プロットがOKになり、脚本を書くのが一般的です。僕自身は、脚本の描き方は独学で、失敗を繰り返して学んでいきました。よく起承転結と言いますが、本作品で大切なのは『感情』の起承転結です。演出をしていたとき、ある方から『脚本から自分が感情移入できる台詞をひとつ探しなさい』と言われました。その台詞にすべてが集約するように映像を作るように心がけています。また、自分だけが理解できるようなエピソードにしないことも大切です」
- 絵コンテ>
脚本→ラフコンテ(ザックリしたカット割り)→清書、という流れが一般的なのに対して、今回は仮アフレコ→Storyboard Proでラフコンテ、清書→仮音声、SE、音楽をあてムービーで確認、という流れを採用しています。
平尾監督「脚本が物語上の時間経過を描くに対し、絵コンテはその物語を実際の時間軸に落とし込んでいく作業です。時間軸に落とし込んだときにシーンが長すぎて助長だったり、短すぎて物語が頭に入ってこない、ということがあります。『映画大好きポンポさん』ではStoryboard Proというソフトを使い、書いたそばからムービーとしてプレビューしました」
- 色と背景/美術/編集について>
イメージボード、カラースクリプトを作る→美術ボード→シーンに合わせて色決め→美術ボードをもとに背景作業→コンポジット→美術・色の再調整、という流れで進めたそう。
平尾監督「まず、カラースクリプトを作り、その後に美術ボードの作成とキャラクターのノーマル色を決めます。カラースクリプトがどういうものかというと、シーンを通してどんな色で人の感情などを繋いでいくかを表します。例えば、シーンが赤なのか緑なのかで観る人の心理効果が変わっていきます。また美術は画面の2/3を占めるため、世界観を表現するのに大切な要素です。夢を叶えていく場所・ニャリウッドは輝いていてほしいのでピンク、シアンなど、たくさんの色を入れていきました。『コンポジット』で初めて背景やキャラクターがひとつになったものを見ます。最後に、美術や色を再調整です。時間と労力がかかるので大変ですが、『映画大好きポンポさん』では撮影後に再度調整しました」
最終の編集工程も、一般的な流れとは異なる方法で進められたと明かします。
ここからは、学生たちからの質疑応答タイム!
――― 駆け出しのとき、モチベーションをどのように保っていましたか?
平尾監督「制作進行から、演出になかなかなれなくて辛いこともありましたよ。20年前に、アニメーションがセルからデジタルに転換する時期がありました。Photoshopを使える人材は貴重だったので、技術を磨きました。『これなら負けない』という武器を見つけてください。自分の未来を開いてくれるものがあるといいと思います」
――― 学生時代、やっておいてよかったことは?
松尾プロデューサー「映画は観ておいてよかったです」
平尾監督「いちばん好きな映画を最初から最後まで見てカット割りを書いてみて。カット割りがなぜ存在するかというと、次のカットやシーンへの求心力を持つからです。例えば、キャラクターの背中を映しているカットの次に、観客は何を求めるか?予想通りなら、顔を見せるカットでもいし、裏切りたいなら別の出来事が起きますね。
あとは、ぜひ色々なソフトや工程に興味を持ってください。作品独自の世界観をいかに作っていくかことを考えたときに各セクションに対しての理解があり、セクションを横断してやりとりができる人材が必要だと感じます」
――― アニメーション業界は、今後どうなっていきますか?
平尾監督「世界で日本のアニメーションは人気が出ていて、オファーは増えています。配信も含めて本数は増えるのではないでしょうか。テレビやYouTubeなどプラットフォームによって見せ方を変えること、柔軟性は求められると思います」
最後に……
松尾プロデューサー「業界には、たくさんの仕事がありますし、どの会社も有能な人材を求めています。辛いこともあると思いますが継続することが大事。この仕事をしたい人は、ぜひ続けてください。いずれ、一緒にお仕事できることもあるかもしれませんのでよろしくお願いします」
平尾監督「夢を持っている人もそうでない人にとっても、応援歌のような作品になるといいなと思います。ものを作るという業界においては、あまり甘いことは言えなくて……厳しいことはたくさんあります。そういうときは、昔こういう作品に感動したとか、そういう体験が大事になるだろうと思います。叶えたいなら、やるべきだと思います」とエールを送りました。
平尾監督、松尾プロデューサー、学生たちの背中を押すようなメッセージをありがとうございます!